【目次】 ※内容見本を閲覧できます
第1章 中医学における昇降理論とは何か~その特徴と臨床における意義……(1)
(1)昇降運動の特徴……(4)
(2)陰陽五行学説との関係……(9)
(3)気の作用機序との関係……(10)
(4)「昇降運動」と「出入運動」……(10)
(5)薬能の理論的根拠「昇降」と「浮沈」……(11)
(6)臨床における意義……(12)
第2章 中医昇降学説の源流……(15)
1 先秦代を起源とする……(16)
2 漢・唐代に充実する……(19)
3 宋・元代の争鳴……(22)
4 明・清代の豊富な学術……(31)
5 近・現代における発展……(40)
第3章 生命活動の基本形式としての昇降運動……(47)
1 消化・吸収・排泄(納食化穀,昇清降濁)……(50)
2 水液代謝(水精四布,五経並行)……(54)
3 呼吸(吸清呼濁,吐故納新)……(57)
4 栄養物質の生成変化(気血循行,身体濡養)……(60)
(1)気化・生成……(60)
(2)輸送・散布……(63)
第4章 人体昇降運動の中核を担う臓腑……(67)
1 臓腑の昇降運動……(69)
(1)肺の昇降運動……(69)
(2)腎の昇降運動……(73)
(3)胆の昇降運動……(77)
(4)三焦の昇降運動……(80)
2 表裏の昇降運動……(83)
(1)肝と胆の昇降運動……(83)
(2)腎と膀胱の昇降運動……(86)
(3)心と小腸の昇降運動……(88)
3 相関する昇降運動……(89)
(1)肺気下降と腎水上昇/気と水の相互関係……(89)
(2)肝血は下焦を充たし,腎精は上焦を潤す……(92)
4 昇降運動における左右外側の周回……(93)
5 昇降運動の中心……(99)
(1)脾は昇清を主る……(100)
(2)胃は降濁を主る……(102)
(3)脾の昇清と胃の降濁による調和……(104)
(4)脾胃は臓腑の昇降運動を促進する……(105)
6 昇降運動の根幹……(116)
7 昇降運動における臓腑のまとめ……(120)
第5章 昇降・出入運動の経路・門戸~経絡兪穴~……(125)
1 正経/臓腑間の連絡と気血の流注……(127)
2 奇経/気血の備蓄と過不足の調節……(130)
3 絡脈/経気の出入の連接,表裏の通達……(134)
4 兪穴/経気の輸注と伝達,開闔と経気の出入……(135)
第6章 昇降運動の失調は病理の要……(137)
1 内傷や精神状態による昇降運動の失調……(140)
(1)昇降運動の停滞……(140)
(2)昇降運動の過剰……(149)
(3)昇降運動の逆行……(154)
2 邪気による昇降運動の失調……(175)
(1)邪鬱気滞による昇降運動の失調……(177)
(2)実結による昇降運動の失調……(186)
(3)正気虚と邪の停滞による昇降運動の失調……(190)
第7章 昇降・出入運動の分析は弁証の原則……(195)
1 昇降・出入状態を分析し病位を定める……(197)
(1)表裏を弁別する……(197)
(2)上下を弁別する……(198)
2 昇降運動の異常を察し病証の虚実を推測する……(200)
(1)上昇不足・下降過剰(多くは虚証)……(200)
(2)上昇過剰・下降不足(多くは実証)……(201)
(3)昇降運動の逆行による虚実錯雑……(202)
3 昇降運動の経路を識別し病の趨勢を明確にする……(203)
4 昇降運動の変化に基づいて病の転帰を推測する……(207)
(1)心火上炎は胃陰の乾燥と肺気上逆を招く……(207)
(2)腎陽虚は脾湿と肝鬱を招く……(207)
第8章 昇降・出入運動を調える治療法……(209)
1 昇陽挙陥法……(213)
(1)補中気法/脾気不足・中気下陥……(213)
(2)昇宗気法/宗気(大気)下陥……(216)
(3)固下元法/腎陽虚・腎気下陥・潜蔵機能失調……(219)
(4)摂衝任法/衝任二脈の気陥……(222)
(5)固滑脱法/下焦陽虚の下痢,気陰両虚証……(225)
2 平鎮降逆法……(228)
(1)平肝法/肝気の上昇過剰……(228)
(2)降肺法/肺気上逆……(242)
(3)和胃法/胃気上逆……(247)
(4)利胆法/胆気上逆……(252)
(5)平衝法/衝脈の気逆……(257)
(6)清心火法/心火上炎……(262)
3 臓腑間調整法……(265)
(1)交通心腎法/心腎不交……(265)
(2)調和肝肺法/肝肺の気血昇降失調……(272)
(3)脾胃同調法/脾胃同病……(277)
(4)宣肺導下法/肺気閉塞による排尿障害……(286)
(5)探吐暢下法/上昇閉塞による排尿困難・月経異常(289)
(6)調補肺腎法/肺腎の虚……(293)
(7)脾腎互補法/脾腎両虚……(297)
4 疏散鬱塞法……(302)
(1)疏肝解鬱法/肝鬱気滞……(302)
(2)調木和中法/肝鬱脾虚・肝気犯脾・肝気犯胃……(306)
(3)温通散寒法/寒邪による経脈の凝滞……(314)
(4)行気化瘀法/気滞血瘀……(317)
(5)疏経活絡法/病邪による経絡の阻滞……(321)
(6)祛痰化飲法/痰飲による病……(323)
(7)芳香開竅法/温病による意識混迷……(329)
5 透邪散熱法……(332)
(1)軽清透邪法/外邪による上焦衛分の閉塞……(332)
(2)逆流挽舟法/表証を伴う痢疾……(342)
(3)調和枢軸法/半表半裏証……(343)
(4)清泄三焦法/三焦の湿熱証……(349)
(5)宣泄鬱熱法/鬱熱証……(355)
(6)清熱瀉火法/火熱上炎……(363)
(7)透熱転気法/熱入営分・血分……(365)
(8)透邪解鬱法/四肢厥冷……(369)
6 消導攻積法……(370)
(1)消食導滞法/宿食の停滞……(370)
(2)苦寒下奪法/有形の熱結(燥便)……(373)
(3)温通寒結法/寒積による昇降出入障害……(377)
(4)開瀉結胸法/結胸証……(381)
(5)宣上通下法/上・下焦の不通……(384)
(6)扶正攻下法/腑実(標)・正気虚(本)……(388)
(7)昇降腸痹法/腸痹による便秘……(392)
(8)釜底抽薪法/身体上部の熱盛……(396)
(9)大腸・小腸調整法/大・小腸の通達障害……(401)
(10)通?散結法/下焦における熱血の蓄積……(410)
7 陰陽燮理法……(414)
(1)辛甘通陽法/中焦陽気不足・虚寒による通降失調(414)
(2)滋陰通降法/胃陰不足による和降失調……(417)
(3)温陽化気法/陽気不足による水液代謝障害……(418)
(4)滋水涵木法/肝腎陰虚……(422)
(5)清上温下法/上熱下寒証……(424)
(6)昇陽固本法/腎気不固証……(426)
(7)通陽納気法/腎気・腎精不足,腎不納気……(427)
(8)益気回陽法/陽虚による陰の病変……(430)
(9)引火帰源法/腎陰虚・腎陽虚・虚陽上浮証……(433)
(10)挽陰回陽法/陰陽離決証……(436)
(11)開竅固脱法/内閉外脱証……(437)
第9章 薬物運用における昇降浮沈の薬性とその応用……(441)
1 昇降浮沈の薬性の特徴……(443)
(1)薬物の性味と昇降浮沈……(443)
(2)薬物の素地と昇降浮沈……(446)
(3)四季の区別と昇降浮沈……(449)
(4)風土の区分と昇降浮沈……(450)
(5)薬物の修治と昇降浮沈……(451)
(6)薬物の帰経と昇降浮沈……(454)
2 薬物の昇降浮沈の性質分類……(462)
(1)五運による分類……(462)
(2)薬性・薬能による分類……(464)
3 主要薬物の昇降浮沈の薬性……(466)
(1)昇浮の性質をもつ薬物……(467)
1)升麻……467
2)葛根……468
3)黄耆……469
4)桔梗……470
5)柴胡……471
6)麻黄……473
7)桂枝……473
8)蟬退……474
9)石菖蒲…476
10)薄荷……476
(2)降沈の性質をもつ薬物……(465)
1)牛膝……478
2)牡蛎……480
3)代赭石…481
4)沈香……482
5)五味子…483
6)紫蘇子…484
7)葶藶子…485
8)紫石英…485
9)亀板……485
10)烏梅……486
4 昇降浮沈の薬性に基づく薬物運用……(487)
(1)病勢による薬物選択……(487)
(2)季節に応じた用薬……(492)
(3)寒熱虚実による用薬……(494)
第10章 昇降運動を調整する合理的な薬物配合……(499)
1 昇降運動を調整する薬物配合……(501)
(1)特定の効能を強調する配合……(501)
(2)類似薬物協調の配合……(503)
(3)昇散・降通による分消の配合……(507)
(4)昇散を促すための昇浮薬と降沈薬の配合……(509)
(5)降泄を促すための降沈薬と昇浮薬の配合……(511)
(6)昇清・降濁を促す昇浮薬と降沈薬の配合……(513)
(7)辛開苦降の配合……(514)
(8)?邪を目的とした補益薬の配合……(519)
(9)固表斂陰を目的とした散・通・開薬の配合……(522)
(10)排泄を目的とした補気薬の配合……(524)
(11)補益を目的とした瀉薬の配合……(525)
(12)開闔を調整する薬物配合……(526)
(13)疏散薬と抑制薬の配合……(531)
(14)収斂薬と辛散薬の配合……(533)
(15)疏散薬と収斂薬の配合……(534)
(16)対立関係にある浮性薬と沈性薬の配合……(535)
(17)舟楫載薬の配合……(544)
2 昇降浮沈の薬性に基づく薬用量・剤型・煎じ方・服用法……(547)
(1)昇降浮沈の薬性と薬用量……(547)
(2)剤型と薬性……(549)
(3)煎じ薬と薬性……(551)
(4)合理的な服用法……(554)
第11章 昇降流注における兪穴の基本的な性能……(555)
1 昇提作用をもつ兪穴……(559)
(1)百会……(559)
(2)気海……(560)
(3)関元……(560)
(4)神闕……(561)
(5)命門……(562)
(6)足三里…(562)
(7)復溜……(563)
2 和降平逆作用をもつ兪穴……(564)
(1)膻中……(564)
(2)中脘……(564)
(3)行間……(566)
(4)太衝……(566)
(5)湧泉……(567)
(6)内関……(568)
(7)間使……(568)
3 開散疏通作用をもつ兪穴……(569)
(1)大椎……(569)
(2)天突……(571)
(3)風池……(572)
(4)足臨泣……(572)
4 その他の兪穴……(573)
第12章 昇清降濁・出入開闔に基づく配穴処方と刺鍼手技……(577)
1 上下配穴法……(579)
(1)上病下取法……(579)
(2)下病上取法……(581)
(3)上下同取法……(583)
2 左右配穴法……(586)
3 前後配穴法……(590)
4 表裏配穴法……(593)
5 遠近配穴法……(598)
6 その他の配穴法・鍼法……(602)
(1)子午流注鍼法……(602)
(2)納支昇降補瀉法……(604)
(3)霊亀飛騰法……(605)
(4)五兪配穴法……(607)
7 刺鍼手技による経気の昇降・出入……(608)
(1)鍼感・灸感の昇降……(608)
(2)提挿開闔の刺鍼手技による出入……(608)
(3)呼吸・捻転の刺鍼手技による出入……(609)
(4)迎随・徐疾の刺鍼手技による補瀉出入……(610)
(5)温通透散鍼法……(610)
(6)平補平瀉の刺鍼手技による昇降調整……(611)
(7)鍼灸・吸の補瀉出入玉……(612)
第13章 昇降運動を調整する際の注意事項……(615)
1 臓腑・経絡・表裏の性能に順応する……(616)
(1)臓腑の性能に順応する……(616)
(2)経脈の性能に順応する……(617)
(3)表裏の性能に順応する……(617)
2 昇降運動の関係性を掌握する……(620)
(1)下降を助けて上昇を抑制する……(620)
(2)上昇を促して下陥を挙げる……(620)
(3)昇降運動を同時に調える……(621)
(4)昇降運動を調整して出入運動を調える……(622)
(5)出入運動を調整して昇降運動を調える……(623)
(6)昇提・宣発によって下降を促す……(623)
(7)降濁によって昇発を促す……(624)
(8)内補によって解表祛邪を図る……(625)
(9)解表祛邪によって内に収める……(626)
3 虚実の常と変を掌握する……(628)
4 昇降運動の調整はバランスを要す……(631)
5 上下の治療を区分する……(633)
(1)上下反治……(633)
(2)上下順治……(634)
(3)上下同調……(635)
処方集&処方索引……637
生薬名・穴名索引……658
文献・人名索引……667
病名・症候索引……677
【推薦文】
"漢方・鍼灸を学び実践する全ての皆様にこの素晴らしい書を推薦させて頂きます"
日本中医薬学会会長
平馬直樹
中医学では、気のめぐりを重視します.気が順調にめぐり、過不足なく体の隅々に供給されることが健康の条件と考えます。気のめぐりが失調した病証に対しては,臓腑の機能を調節して気の昇降運動を整えて回復を図ります。肝の疏泄,肺の宣散と粛降,脾の昇清と胃の降濁,腎と心の相交などの機能を調節して治療にあたります.
1988年に私は,中国中医科学院広安門医院に留学し,中医内科を名老中医の路志正教授の臨床指導を受けて学びました.路老師が脾胃の昇降を整えることによって,多くの難病を治療されるのを目の当たりにして,昇降理論に大変啓発されました.
帰国後,寇華勝先生の知己を得て,ご著作の『中医昇降学』と出会うことができました.1990年に著された同書は,中医の昇降理論を生理・病理から解説し,診断・治療へと詳しく展開して,きわめて臨床的価値が高く,おおいに目を開かされました.
この書は歴史上初めて中医昇降学を系統化して世に問うたもので,この書によって中医昇降学は学説として成立したといえるでしょう.この書は中国では中医界に広く受け入れられ高い評価を得ました.そのころ中国を訪問すると新華書店の中医コーナーに『中医昇降学』が多数並んで配架されているのを目にしました.また,当時の中華中医学会副会長の董建華教授(北京中医学院),中医内科分会の責任者熊魁梧教授(湖北中医学院)らが高く評価しています.北京中医薬大学の魯兆麟教授の主編になる『中医各家学説』には「寇華勝の著述した『中医昇降学』は昇降学説を総括した」との評価が記されています。歴代の重要な中医の諸学説と肩を並べる学説と認められたのです.
1992年に私たち東京臨床中医学研究会は,寇華勝先生をお迎えして,東京で中医昇降学のご講演を頂き,交流を図り多くの知識を得ることができました.その後の臨床にたいへん役立っています.
この度,『中医昇降学』が大幅に増補・修訂され日本語版で出版されることは,日本で中医学を学ぶ者にとって大きな朗報です.寇華勝先生は長年温めていた昇降理論をさらに深めて,新しい研究成果を加え,昇降理論をさらに充実させました.中医昇降理論はさらに完成度を高めました.
昇陽挙陥,平鎮降逆などの治療原則が整理され,薬物の昇降浮沈の性質を解説し,その応用規則と処方方法が詳しく示されています.日本漢方の繁用処方も多数解説されています.また,鍼灸による開闔出入の治療法が大幅に増補されました.経絡の昇降出入経路の門戸となる経絡兪穴の作用を解説し,配穴規則をみごとに分析し,開闔出入法という鍼灸技法を体系づけています.本書で示された漢方薬の昇降浮沈の性質を応用する湯液治療と鍼灸の開闔出入法は,互いに補完し,昇降治療学の内容を豊富にし,昇降理論の臨床意義と実用価値をおおいに高めています.私たちの臨床に大いに役立つことでしょう.
寇華勝先生の『中医昇降学』増補版の出版は,中医学の発展を促し,我が国の漢方治療・鍼灸治療に大きく貢献することでしょう.漢方・鍼灸を学び実践する全ての皆様にこの素晴らしい書を推薦させて頂きます.