【目次】
西洋医学的総論
<1> 老化とは……… 2
<2> 老化学説……… 7
<3> 高齢化社会と高齢社会……… 10
<4> 老人の定義………12
<5> 高齢者の疾患の特徴………14
漢方医学的総論
<1> 『黄帝内経素問・霊枢』にみる高齢者像………24
<2> 証
1.徴候としての証………32 2.病名としての証………37
3.体質としての証………38 4.結論………46
<3> 高齢者の特徴を捉えた漢方治療………47
1.高齢者の証………47 2.first choice としての補剤………51
3.平衡維持………55
<4> 養老法………59
<5> 高齢者の漢方治療の要点………66
各 論 <1> 徴候・病名に基づく一般的漢方処方
1.腰痛症………68
2.膝関節痛………77
3.肩関節痛………83
4.食欲不振………89
5.慢性便秘………97
6.慢性下痢………106
7.痔………114
8.風邪症候群………122
9.慢性の咳と痰………134
10.排尿異常………143
11.腎機能障害………152
12.疲労倦怠感………161
13.不眠症………170
14.手足の痺れ………178
15.頭痛・片頭痛………187
16.冷え症………196
17.めまい・ふらつき・立ちくらみ………206
18.高血圧………215
19.低血圧………226
20.動脈硬化………232
21.脳血管障害 附 脳機能障害・変性疾患………244
<2> 症 例
1.帯状疱疹後神経痛に桂麻各半湯加味………256
2.著明脳室拡大(正常圧水頭症の疑い、髄膜炎後遺症の疑い)………259
3.慢性便秘2例………262
4.一寸した体調不良に桂枝湯2例………267
5.緑内障に越婢加朮湯………273
6.膝関節痛に防已黄耆湯合大防風湯………276
7.不整脈2例………279
8.石灰沈着性肩関節周囲炎と陰嚢部脂漏性湿疹?………287
9.頻尿2例………291
10.低血圧2例………299
11.頸部椎間板症候群2例………307
12.元気街道………313
<3>『衆方規矩』にみる延寿妙方p318~321
処方集&処方索引、病名・症候索引
【本書の特色 】
◆高齢者疾患の特徴と治療の要点を総括
高齢者疾患の特徴は、①複数の慢性の多臓器疾患、②個体差が極めて大きい、③生体防御力が低下している、 ④自覚症状はあっても他覚的所見に乏しい、⑤恒常性維持の低下がある、とされている。これら高齢者疾患の特徴を踏まえ、高齢者の漢方治療の要点は、①証を重視する、②補剤がfirst choiceとなることが多い、③平衡を維持する配慮に努める、④養老法に心掛ける、ということになると著者は言う。
◆証の概念を従来と異なる視点からわかりやすく解説
漢方医学で言う証とはそんなに特殊な概念なのかという、従来と異なる視点から証の概念を分かりやすく解説。証は本来、①徴候(症状・症候)としての証、②病名としての証、③体質としての証の三つに大別されると結論する。
◆高齢者の漢方治療では証診断が病名診断よりも優先する
西洋医学は病名診断のもとで治療するが、漢方においても成人に対する治療では、本来病名あっての証診断が必要である。しかし、高齢者は生理的・病的老化や多臓器疾患という特徴ゆえに、成人のように特定の疾患に起因する自覚症状という方式が成り立ちにくいため、自覚症状 ⇒ 他覚的所見 ⇒ 病名診断という手順はあまり意義をもたず、証診断が病名診断よりも優先する。これは本書を貫徹する著者の哲学である。
◆漢方処方の多彩な複合薬効は多剤併用を回避させる
一病名一薬剤ということから来る多剤併用はある程度やむを得ないにしても、うまくすれば証という概念を導入することにより、漢方エキス製剤一剤で対応することも可能である。しかも合方することによって更に治療の幅が拡大する。漢方薬は一剤であっても効き方は一通りではない。主治とともに必ず多くの傍治が存在するという漢方治療の特性を強調する。
◆高齢者にありがちな徴候・病名別に処方応用を詳説
本書各論では、徴候や病名に基づいて証診断を重視しながらどのような医療用漢方製剤がよく処方されるのか、効果があるのか、その処方の特徴的な口訣を一覧表とし、更に詳しく各々の処方についての解説を記述している。漢方処方がどのようにして有効性を発揮するのかを知るためには、処方の構成薬味を充分に吟味しておく必要があるため、構成生薬の作用と病態との関わりをはじめとして、実際の臨床における使い方や合方応用、著者独自の捉え方にも及んでいる。
◆著者独自の用法を披瀝する症例
本書に掲載した著者の症例では、一般的漢方処方の使い方の例示というよりも、どちらかといえば、著者独自の用法である面が強い。本書の対象者が単に漢方的に初心の方だけを念頭に置いているのではない一面とも言えよう。
【発刊に寄せて 】
大澤仲昭
大阪医科大学名誉教授
(学校法人 藍野学院)藍野加齢医学研究所所長
日本東洋医学会名誉会員
この度、「高齢者の漢方治療-老化と安定平衡-」というタイトルで、小山誠次先生が執筆された本書が刊行されることとなった。高齢社会になった我が国の医療において、高齢者に対する漢方治療の重要性は多くの漢方医学の専門家により指摘されている処であり、これに関する書物も数多くみられるが、小山先生の執筆された本書は、これ迄の書物と異なり、漢方医学的に極めて独創性の高い内容を持った素晴らしい著作であることに大きな感銘をうけるものである。
本書には、漢方医学的に高度な内容が、明解に、且つ極めて分かり易く表現されて居り、専門医のみならず、漢方医学の初心者である一般医にも読み易くなっているが、特に注目されるのは、一読して非常に分かり易く書かれている点である。一般に漢方医学に関する書物は、初心者が読む際に常に独特の難解さ、あるいは抵抗感を感ずることが多いが、本書には全くその様な処が感じられないのは驚くべきことで、小生が本書を高く評価するのも一つにはこの理由がある。これは一般になじみ難い「証」の説明の項によく表れている。これは著者の並々ならぬ力量にあることと思われるが、これまで執筆された数々の著作を拝見するとそれがよく理解出来る。著者のこの才能は、西洋医学が中心の我が国の医療において、漢方医学を普及する上で実に貴重なものであると思われる。
ところでで本書の内容は、21世紀の高齢社会の我が国の医療において、漢方治療がどのような位置づけにあるのか、またどうあるべきかについて明確に示している。明治以来我が国の医学、医療の基盤となって来た西洋医学は、20世紀の後半に到り、ゲノム医療、再生医療、更にはオーダーメイド医療といった先端医療を含めて驚異的な進歩をとげたが、その一方で、"自覚症状⇒他覚的所見⇒病名診断"から病名治療という、いわゆる疾患治療のみでは、患者に十分な医療を行えないという反省から、"患者中心の医療"が注目されるようになり、21世紀の医療のキーワードとして"病気の治療から病人の治療へ"というテーマが大きく取り上げられるようになった。特にこれは全人的治療が要求される高齢者の医療において重要な点である。この問題に対して、漢方医学はその本質上、病人の医療を原点としている処から、高齢者の医療において特に大きな意義を有していることはよく理解される処である。この点で、漢方医学の知識の普及が望まれるが、本書はそれによく対応した優れた内容を持っている。
これは、著者が西洋医学、漢方医学の両者に深い知識と経験を有しており、何よりも、我が国の医療、特に西洋医学が基盤の行政体系の下で、漢方医学をどのように位置づけるかについて、明解なビジョンを持っておられる点に基づいていると思われる。そしてそれを自分の言葉で語ることが出来る点が素晴らしい処である。漢方医学、あるいは東洋医学には種々の流派があり、それが西洋医学を勉強した一般医にとって分かり難い点もあるわけで、例えば小生は大塚敬節先生に師事し、古方派の漢方を勉強したものであり、著者の小山先生とは異なる点も有している。ただ、本書を読めば、西洋医学を基盤とする我が国の医療体系の下で、漢方医学を進めて行く上で何が大切かがよく分かる。この点、小生も全く同感であり、本書を推薦する原点にもなっている。医療において最も大切なことは、西洋医学であれ、漢方医学であれ、"医療の原点が患者にある"ことを忘れなければ、最高の医療を提供出来る医師になれると信じている。
余談になるが、小生の大学の同級生に有名な漢方医を親に持つ友人が二人居た。一人は大塚敬節先生の子息の大塚恭男君(北里研究所東洋医学総合研究所名誉所長)と中島随象先生の子息の中島重廣君(現在米国に在留)であった。本書の著者の小山誠次先生が師と仰がれる故山本巌先生が中島随象先生の流れをくむ"カリスマ的臨床医"であったことを知り、何かの御縁があったかと思っている。
本書は高齢者の漢方治療と題されているが、その内容は、漢方治療全般にわたっての広い知識を含んで居り、21世紀我が国の医療において、漢方医学を定着させる上でも、また医学教育の中のコアカリキュラムに漢方が取り入れられた現在、極めて分かり易い本書のもつ意義は大きいものがあると考える